お知らせ
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後継者・後継社長が必要な経営知識を 学ぶためのeラーニングツールの開発
中小企業診断士協会 管理者
高橋秀仁(事業承継支援コンサルティング研究会 副幹事)
■1.ツール作成の経緯
事業承継支援コンサルティング研究会では、毎年、新規プロジェクトを立ち上げている。令和2年度は後継者の経営力を高めることを目的に、オンラインを活用した教育用のプロジェクトをスタートさせた。ご存じの通り、事業承継は中小企業にとって喫緊の課題であるが、社長の交代は遅々として進んでいない。経営者が後継者に会社を任せることに不安があるためであり、後継者の経営に必要な知識が不足しているためである。つまり、後継者・後継社長が事業承継後も中小企業を安定経営できる経営力を承継前に学べば、事業承継の課題がひとつ解決できる。
事業承継後に後継者の経営知識の不足により、正しい経営判断ができず、修正困難な失敗を招くことも多く、中小企業の経営を危うくさせているケースも散見される。また、知識がない状態で会社を継ぐことに後継者自身が不安を持ち、社長交代に消極的で、事業承継の「先延ばし」が発生している。事業承継を円滑に進めるためにも、事前の教育が必要であるが、経営資源に余裕のない中小企業の後継者にとって、経営知識を総合的体系的に学べる環境は少ない。そこで、我々中小企業診断士が会社経営に必要な知識を正しく解説し教育することで、後継者を育成し、中小企業の事業承継を円滑に進めることを目的し、本プロジェクトを発足させた。
開発したツールは「全国どこでも、いつでも、安価に受講できること」をコンセプトに、集合研修ではなく、オンラインのeラーニングを活用する方式とした。プロジェクトメンバーは事業承継支援実務に従事し、セミナーの経験も豊富な会員を選出した。
プロジェクトメンバー
高橋秀仁(リーダー)、岸田 康雄(総括)、黒須 靖史(運営主体)、河崎 展生(事務局)、小野 英章(Web設定)、神原 哲也、高岸 浩文、山本 幸一、山田 秀樹、沼田 邦男、内田 哲夫、松井 智、野村 昌明、木下 岳之、八ツ本 泰之(敬称略)
■2.本講座の目的と特徴
スポーツでも勉強でも、基礎的な知識の習得は大切である。基礎ができていなければ、その先の成長は難しい。事業承継における経営知識も同様である。中小企業の末永い発展のためには、後継者の基礎的な経営知識の取得は必須である。
しかし、対象となる範囲が広く、独学で学ぶことは難しい。また、経営者や後継者の経験則だけの断片的な知識では偏りがあり、不十分と言える。安定的経営には、後継者が経営知識を総合的・体系的に学べ、「経営者」としての素養を高めることが重要である。そして、事業承継においては、一般的な経営知識とは少し異なり、すでにある経営資源をどのように活用し、新しい価値を創造することに関して、十分な学びが必要である。
そこで、事業承継支援の実務上の経験から、後継者に必要な経営知識を網羅した7つのテーマを選定した。さらに、受講者が飽きないように複数の講師による動画を撮影し、オンライン教材とした。各動画を15分程度にすることで、受講者はスマホやパソコンで簡単に視聴でき、またeラーニング専用システムを用いることで視聴履歴の確認やQ&A体制も整え、利便性を高めた。さらに、動画配信に特化することで通学形式の講座よりも安価な提供を実現した。これにより、受講者が時間、場所、費用に縛られることなく、質の高い後継者教育を受ける機会を拡大させた。
加えて、中小企業診断士が支援先の後継者へこのeラーニングを受講してもらい、その後、講座内容の補足や解説を診断士が現場で行い、理解を深めさせることで、より一層充実した後継者教育の実現や支援先との良好な関係の構築にも寄与できる。
<概要>
多くの中小企業の経営者は加齢とともに後継者へ社長を交代したいと本心では考えているが、「後継者が会社経営の経験と知識が足りず、経営を任せることに不安がある」と感じている。現経営者から「任せてみよう」と思われるには、後継者が会社経営に必要な知識を、少なくとも現経営者と対等に話せるだけの経営知識の情報武装が必要である。我々は後継者に必要な経営知識を総合的・体系的に学べる場をつくることで、社会課題を改善する解決策になると考え、必要なツールとして開発した。
中小企業経営に精通している我々中小企業診断士が正しく教えるからこそ、中小企業の経営の現場で活用できる経営知識を総合的に学べ、後継者に正しい経営判断と実行を促せる。よくある事業承継の問題として、後継者教育は実施したが、教育内容に偏りがあり、教育が不十分な分野においてトラブルが発生することもある。たとえば、資金繰りは学んでも、人材育成やマーケティングを知らない後継社長は、社内の人材を十分に活用できず、有効なマーケティング戦略を立案できないために、経営に行き詰まることもある。または、自分の少ない経験から、誤った経営戦略を実行することで、企業を窮地に追い込むことがある。多くの中小企業の実態を知り、幅広い知識と支援経験を持つ我々であれば、知識的にも実務的にも経営に総合的にサポートできるため、この後継者の教育については最適である。
講座の対象者
・事業承継を控えた後継者
・事業承継後3年以内程度の後継社長
これから会社を引き継ぐ後継者か、社長には就任しているが実質的な経営責任を有していない後継社長がメインターゲットである。経営の基礎知識を学べるため、業種・業界・規模は問わず、広く全国の後継者・後継社長が対象である。
開発プログラムの内容
1.フロントセミナー(2時間)
2.後継社長育成経営力講座(本編)
1.フロントセミナー(2時間 価格 5,000円)
後継社長育成経営力講座のダイジェスト版を作成し、まずは講座の概要を知っていただき、申し込みへとつなげるオンライン動画である。後継社長育成経営力講座の目的や講座の概要(第1講から第7講までプログラム)を解説し、この講座を受けることにより得られるメリットも説明する。
このフロントセミナーも動画で撮影し、編集後、専用のホームページにアップロードしており、受講者はセミナー代の決済後に、いつでもオンラインで視聴できる。
2.経営後継者養成講座(本編)
動画時間 約30時間 価格 150,000円
1つテーマを複数の単元に分割し、担当メンバーが動画で解説している。解説の途中に自習用のワークや練習問題もあり、セミナーをライブで受講しているようなスタイルで臨場感を出した。また、各動画は15分から20分と短めに作成しており、短時間で一つの単元が理解できる構成である。講師への質問もメールで可能であり、受講者が不明点を解消でき、全ての受講者が経営知識を修めることができる。最終的には自社の事業承継後の経営方針や簡易版の経営計画を作成し、事務局に提出すれば、診断士が添削とコメントを付記して返信することで、事業承継の取り組みを後押しする。
また、事業承継計画を実施する段階で、プロジェクトメンバーが計画書に従って、経営サポートすることで、継続的な支援体制が可能である。本プロジェクトとしても、オプションメニューとすることで、その企業を長く支援することも可能となる。
経営後継者養成講座(本編) テーマ一覧
オリエンテーション
第1講 事業承継にあたって 事業承継の失敗と成功とは
第2講 後継者の在り方、後継者の能力
第3講 社内の現状把握1 (経営・マーケティング編)
第4講 社内の現状把握2 (組織人材・法律関係)
第5講 企業の財務知識
第6講 自社株対策
第7講 事業承継にむけて
最終課題「中期経営計画フォーマット」
ホームページ Home ¦ keieikoukeisyae-learning (jimdosite.com)
講座紹介用動画: https://youtu.be/6uDapxaaADU
全ての動画はプロジェクトメンバーで全体プログラムを策定後に、各担当のテーマについて投影用資料を作成し、講師役として解説する模様を撮影した。その後にプロジェクトリーダーが全ての動画を編集した。
動画はプロジェクト専用のGoogle Driveへ安全に保管している。(元データは複数名・クラウドでコピー保存し、万一の場合も復旧を容易にしている)
視聴用のツールとして「iroha Board」のオンラインサービスを活用することで、顧客管理の利便性を確保しつつ、動画を安定して配信できる。配信用のホスティングサーバーを契約し、そこにiroha Boardの環境を構築している。
コンテンツ作成から撮影・編集・環境構築のすべてをメンバーで行っているため、動画の修正や追加が適宜行うことができる。今後は最新情報があれば、再度動画を撮影し、編集後、バージョンアップとして、最新の動画と変更することで、常に新鮮な情報を提供できる。それによって、長く運用できることでプログラムの陳腐化を防ぎ、フレキシブルな運用を実現した。
経営後継者養成講座URL
eラーニングURL http://smeca-jsk.com/irohalms/
操作説明 https://irohaboard.irohasoft.jp/features/
■3.各テーマ・単元の概要について
後継社長育成eラーニングの内容は次のとおりである。
オリエンテーション 担当 高橋秀仁リーダー
この講座を受講するに当たっての、全体的な説明。
第1講 事業承継にあたって 事業承継の失敗と成功とは
担当 神原哲也会員、 高岸浩文会員
1 事業承継とは何か 2 事業承継の失敗と成功 3 会社について
4 経営者の仕事について
事業承継の概要について、解説する。事業承継の失敗と成功や経営者の仕事など後継者が知っておくべく優先事項である。
第2講 後継者の在り方、後継者の能力
担当 山本幸一会員 髙橋秀仁リーダー
1 後継者の在り方 2 経営知識の必要性 3 後継者のリーダーシップ
4 リーダーシップのタイプ
事業承継においての後継者の内面的なことについて、事業承継を経験している診断士が自らの経験と経営理論を踏まえて、分かりやすく解説している。
第3講 社内の現状把握1(経営・マーケティング編)
担当 山田秀樹会員、沼田邦男会員
1 経営戦略について 2 経営とは 3自社の強みと弱み 4 顧客情報
5 競合他社の情報
事業承継後の経営について、経営戦略からマーケティングに一貫性を持たせて、経営活動できるように、必要なマーケティング知識を解説している。
第4講 社内の現状把握2(組織人材・法律関係)
担当 内田哲夫会員、松井智会員
1 組織と人材 2 人材マネジメントの基礎 3 コンプライアンス 民法関係
4 人材の育成
事業承継のおける人材の引継ぎと活用は大きな課題である。人材のマネジメントやコンプライアンスなど、今の時代に求められる「ヒト」の課題について解説している。
第5講 企業の財務知識
担当 野村昌明会員、木下岳之会員、高橋秀仁リーダー
1 必要な財務知識 2 財務諸表の見方 3 お金の流れ財務諸表
4 数値分析 上場企業分析 5 製品情報・売れ筋死に筋 6 損益分岐点
後継者は数値について、全く学んでいないことがしばしばある。会社経営に必須である数値の分析や、数値管理、資金繰りなど、必須の知識を解説している。
第6講 自社株対策に
担当 八ツ本泰之会員
1 自社株対策 株式の知識 2 株式の評価 3 株式承継の基本
事業承継は自社株を引き継いで完成である。その自社株の引き継ぎの正しい方法を解説している。
第7講 事業承継にむけて
担当 黒須靖史会員
1 会社を継ぐための3つのステップ 2 後継者として行うべき事
第1講から第6講座までを再度復習しながら、統合して、実践的な経営活動を解説している。最終課題について説明がある。
■4.eラーニングの申込みと受講の方法
1)入手方法
まずは専用HPから申し込み
→事務局から入金案内の送信
→入金後に動画視聴URLとID・パスワードを事務局から送付
→開始月から6ヶ月以内に視聴する
→全て視聴後に最終課題を事務局に送付
→診断士が、添削コメントをつけて送信
→その後継続的にフォローし、コンサルティングを目指す。
■5.後継者経営力育成eラーニング支援事例
1)これから経営者になる後継者時代に学べる
事業承継を考える経営者に向けて、後継者の育成プログラムとして、このeラーニングツールを紹介する。オンラインでの利便性を強調し、進捗管理も可能なので、途中で学習をやめることを防ぎ、最終課題まで完走させる仕組みである。そして、最終課題は後継者が考える将来の経営戦略でもあり、今後に経営者と後継者が本当の意味で、会社の将来を共に考える機会にできる。
2)社長就任後に会社経営に不安のある後継社長
社長に就任しているが、先代が会長などで社内に残っており、なかなか経営判断ができていない後継社長には、経営知識を学んでいただき、正しい経営の方法を先代(会長など)と話せる基礎をつくる。一般的に後継社長はヒトに関する悩みも多く、この動画では、人材の活用やリーダーシップの本質を学び、実践的な知識や手法を修めることができる。
3)従業員承継の場合は後継者候補に経営力を学ばせる
近年増えつつある従業員承継。中小企業であれば、社長の役割は社長しか知りえず、経営幹部でも、会社全体を運営するために必要な知識を身につけていない。この動画で、これまでの未経験だったテーマについて学んでいただき、バランスのとれた経営者を目指し、複数名に受講させ、最終課題の内容を現経営者が見ることで、後継社長としての資質を確認することに活用できる。
■6.おわりに
全国の中小企業零細が堅実に経営し続けることは、地域経済と地域雇用にとって、重要である。日本各地に100年企業が存在する理由であり、日本式の経営手法である。
その中小零細企業の事業承継を円滑に進めていくことは、中小企業診断士に求められる重要な役割であると、当研究会は考えている。
事業承継は中小企業の経営を現経営者から後継者にバトンタッチするわけであり、企業の総合的な引き継ぎに関するコンサルティングは、まさに中小企業診断士が得意とするところである。事業承継の現場では、さまざまな要因で事業承継が進んでいない。その要因の一つである後継者の経営力養成をこのeラーニングを活用し、課題を解決すれば、事業承継も進展すると考えられる。
中小企業診断士や事業承継に関わる専門家の皆様が、この後継者経営力育成eラーニングを活用し、後継者の経営力を高め、末永く発展する中小企業を増やしてくださることが、我々の願いである。そして、皆様と中小企業と我々研究会が共に発展することを祈念している。