小規模事業者の情報発信を効率化するコンテンツ制作ツール
~12の「呼び水」を使ってサクサク創る制作メソッド~
実践的プロモーション研究会
増田 浩一
山ノ上 伸二、鈴木 克実、川崎 佳朗、飯田 保夫(社労士)、大谷 秀樹
1.課題認識:事業者は「コンテンツ」制作の方法論を、まだ持たない
販売意図が見える広告的な情報が敬遠され、商品やサービスへの共感を重視する消費者意識が高まるなかで、SNSなどによるオンラインでの情報発信が重要になっている。これに加え、コロナ禍で対面営業がしにくい状況が続き、その重要性はますます高まっている。
しかし、いざ情報発信に取り組んでも、事業者には商品紹介が精一杯で、消費者に共感される情報である「コンテンツ」を継続的に制作し発信する力は不足している。多くの事業者は、情報発信の必要性は理解しているが、その方法がわからず二の足を踏んでいることが多い。このような状況を解決する目的で当ツールを開発した。また、当ツールが情報発信者の自己満足にならないよう、定量的な売上目標などと連動させることや、定性的な顧客との関係性強化につながる目標を設定できるようにもした。
2.課題解決の着眼点:「呼び水」があれば事業者は自ら「コンテンツ」を創造できる
ツール開発にあたり日頃の支援経験がヒントとなった。それは「事業者は自ら意見を述べることは苦手だが、問いかければ多くを語る」ということである。そこで事業者の意見を述べやすくする「呼び水」的なものがあらかじめ用意されていればよいのではないかと考えた。「呼び水」があれば、表現に不慣れな事業者でも容易に「コンテンツ」を制作することができるはずである。
この仮説を検証するために、ある事業者に協力を仰いだ。鮭の粕漬けを扱う専門店である。ふだん多くを語らない経営者であるが、鮭の種類に関する情報を提示したところ、これを「呼び水」としながら、独自の意見を述べることができた。そしてその内容は消費者にとって非常に興味深いものであった。
そこで、この経験を一般化し、より多くの事業者に提供できるツールとなるよう開発を進めた。
3.実践的コンテンツ制作ツール:「コンテンツ」制作手順を伴走型ツールで円滑に
ツールの開発にあたって、「コンテンツ」開発の手順を明確にした。コンテンツの制作手順は次の3ステップである。①当社独自の訴求点を発見する。②コンテンツの内容を作る。③発信先を選定する。事業者の理解のしやすさを重視し、簡潔な3ステップとした。3ステップを円滑に進めるツールを手順ごとに開発した。
ステップ1:訴求点発見ツール
ステップ1では、当社のありたい姿(ビジョン)と3C(顧客・自社・競合)とを確認し、独自の訴求点を見出す。専門用語を使わず、事業者に理解しやすいツールとした。また、3Cは顧客→自社→競合の流れで問いを立て、自然と顧客視点で訴求を考えられるように工夫した。
ステップ2:コンテンツ呼び水ツール
当研究会が独自に収集した企業の「コンテンツ」を12の「呼び水」に集約した。具体的には1.原料の種類、2.生産方法、3.製造設備、4.原産地、5.消費の仕方、6.周辺グッズ、7.歴史、8.五感、9.資格制度、10.著名人、11.書籍、12.導入事例である。
また、「コンテンツ」は集積することで全体の印象を通してさらに力を発揮する。たとえばSNSでは写真を使うことが多いが、写真は、色・レイアウト・構図・背景といった「世界観」を統一するとより強い印象を与えることができる。そのため世界観を設定できる欄を用意した。
さらに、顧客視点で共感されやすい「呼び水」を選ぶことを忘れないよう、4つに絞り込む工程を入れた。「コンテンツ」制作にはとくに顧客視点が重要であるため、後述の補助ツールも開発した。
サブステップ:補助ツール
顧客の声から、「呼び水」絞り込みのヒントを探す。
ステップ3:発信先選定ツール
コンテンツの発信方法を、事業者の取り組みやすさと業種別の親和性を元に優先順位付けた。多くの人員を割きづらい事業者にとって、まずは担当者完結型の取り組みで、実績を積むことが望ましい。また、SNSの利用者の目的などを考慮し、店舗型のB to C企業、無店舗型のB to C企業、B to B企業ごとに、効果が発揮されやすい発信方法を分類した。
4.ツール活用の事例と効果:ツールで実現した継続性と実効性
開発したツールは「恵比寿 日本酒居酒屋」「築地 鮭の粕漬け専門店」「神保町 ヴィンテージレコード店」で運用と効果検証を行った。
その結果、開発ツールを用いることにより事業者が継続的に「コンテンツ」を作り続けられるという検証結果が得られた。顧客との親密度や関係性を高める取り組みを継続して展開できるようになったことを裏付けている。具体的には次の通りである。
定量的な効果として、本来ならば、実践的コンテンツ制作ツールを活用して投稿をした場合の来店客数・売上金額などの実績検証も行うべきだが、昨年度からの新型コロナウイルスの影響で適切な検証が見込めないため、今回はSNS評価スコアだけで評価を行った。その結果としてフォロワー増加、フォロー外のアカウント(新規)への到達件数、インタラクション(いいね、コメント、保存数)が飛躍的に伸長したことがあげられる。
定性的な効果として、事業者の継続的な取り組みになり、コロナ禍になって疎遠になりがちな常連顧客との関係性維持・向上に寄与したことがあげられる。
・[社内効果]「コンテンツ」制作が店主の継続的な活動になった。
・[社内効果]YouTuber活用施策において訴求点を活用して依頼ができた。
・[波及効果]訴求点に合わせたメニュー改定、インテリアなど、副次的な活動に派生した。
・[波及効果]支援後のSNSを見てメディアから取材の依頼が入った。
・[営業効果]コロナ禍において来店しづらい常連顧客から「久しぶりにお店に行きたくなった!」や「応援しています。コロナがあけたら行きます」のような声が得られた。
5.留意事項:常に“実践的”であるために注意したいこと
①継続的な取り組みにするため、経営者と支援者(中小企業診断士など)のみで進めずに、担当者を巻き込んだ形で、合意形成を図りながら実行し、当事者意識と主体性を醸成していくこと。
②巻き込みに際しては、「コンテンツ」制作と発信がいかに当社にとって有効かを説明し、担当者の内発的動機づけを誘引すること。③に示す顧客からの反応を継続的に見ていくことも効果的である。
③継続的に投稿内容について顧客からの反応を見たり、定量的な効果分析を行ったりしながら、手応えを得ながら、さらによりよい「コンテンツ」を目指していくこと。
6.本研究の展望:営業結果に直接貢献する「コンテンツ」を目指して
本研究を土台にさらに深耕を図る。売上に寄与できる「コンテンツ」とは?というテーマで、営業結果に直接的に好影響をもたらす「コンテンツ」制作のノウハウを取りまとめていく。
Ⅰ.リアル店舗では、コンテンツ閲覧者別の来店頻度・購入金額などの相関分析を実施。
Ⅱ.EC(eコマース)展開事業者では、SNSとECのデータ連携による相関分析を実施。
Ⅲ.写真の持つ訴求力に着目したA/Bテスト(クリエイティブ比較テスト)などを実施。
参考文献:「いちばんやさしいコンテンツマーケティングの教本」 宗像淳・亀山將 著インプレス 刊