業界の横綱を目指す㈱田島軽金属への継続的な
コンサルティング活動の実践
~従業員アンケートなどによる組織改革・業務改善・職場活性化の取組~

城西支部 コンサルティング実務研究会
漢那 宗丈、佐藤 健

1.コンサルティング実務研究会の状況
当研究会は1975年に発足し当初は商店街支援などを行っていたが、1996年にコンサルティング実務研究会へ名称変更し、現在は企業支援を中心に活動している。
対象企業は、従業員40名以上/売上10億円以上の中堅の業績堅調な企業が中心で小規模企業は少なかったが、個人事業者(作文教室)への支援も開始した。
支援に当たっては、守秘義務契約締結後に決算書や経営計画など内部資料を取得し、経営者ヒアリングなどを経て、会員各自の改善案を全員で議論してまとめていく。
これまで約30社へのコンサルティング実績があり、現在は本論文事例の㈱田島軽金属のほか、住宅関連サービス企業の人事評価システム構築や不動産企業の中期計画策定支援などの活動をしている。現在の支援企業の一覧を下表に示す。

企業と互いに緊張感を持って支援を行っており、「全員が提案し人の良いところは自分のものにする。質問・反論はOK。批判はしない。」をモットーに、プロのコンサルタントとしての能力の研鑽に努めている。

2.㈱田島軽金属への支援の経緯
2016年11月に研究会会員の紹介で当社の経営者を訪ね、工場見学および企業概要聴取を行い、企業支援のニーズをうかがうと経営改善計画の策定支援を求められた。
当社の依頼を受け、主力金融機関に経営改善計画を作成提出し、長期借入の一本化および当座借越による運転資金枠の設定による借入形態見直しまで一貫した支援を行った。以降経営改善計画書の四半期ごとの見直しを、当研究会で行っている。
これに引き続いて「ものづくり補助金」応募にあたっての助言・支援を行った。
その後は、当経営者と研究会メンバーが定期的に経営課題について議論する場を設け、経営者からは課題の整理ができ、解決に向けた施策の考え方などが得られると評価をいただいている。
その議論の中で、経営理念「社員の成長と豊かさ」の実現に向け、従業員向けアンケートを実施しているが、従業員の本音をつかめない、製品不具合発生時に処理が遅れるなど人的・組織的な問題が考えられるが、具体的な課題が抽出できていないなどの状況が示され、支援を求められた。
それに対して、研究会独自のアンケートを提案し実施して、分析結果から提言に結びつけた。それを受けた改善が始まっており、今後も確実な成果に向けて継続的に支援を行っていく。

3.㈱田島軽金属の状況と課題
⑴ 事業概要

・創業:1968年(創業50年) ・従業員数:100名
・売上:24億円 ・営業利益:1.6億円 ・経常利益:1.5 億円 (2018年6月期)
・事業所:本社/工場 ・(近隣)第2工場 ・横浜営業所
⑵ 事業内容:非鉄金属製品製造
・工作機械、自動車メーカーへのアルミ鋳物部品の製造販売
・半導体/液晶製造装置部品、医用機器部品、原動機
関連部品など大型部品中心で、試作品の受注も多い。
⑶ 事業環境 ・・・ アルミ鋳物産業の現状
・単価の安い(239円/kg)鉄系の鋳物の生産が海外にシフトしているのに対し、アルミ鋳物(単価676円/kg)の国内市場は堅調に推移している。
・アルミ鋳物の対象市場は自動車関連がほとんどを占める。

⑷ 当社の現状
・意欲的に経営に取り組む経営者のもと、有機自硬性(砂に樹脂と硬化剤を混ぜその反応で砂を固めて鋳型を作る)工法を他社に先駆けて導入し30%を超える生産性向上を実現するなど技術革新に取り組んできた。
・大企業の製品開発に参画して受注につなげることでいろいろな業種からの受注に成功してきた。自動車関連が中心のアルミ鋳物業界において、当社は工作機械関連など幅広い企業から受注があり、幅広い対応技術を保有している。
・アルミ鋳物製造関連設備を自社開発し、同業他社への販売も行っている。
⑸ 課題
・製品種類の多角化を実現してはいるが、顧客事情による大きな受注変動があり、提案型営業による受注の安定と拡大が課題となっている。
・いろいろな業種からの試作品などの受注のため、受注情報や生産日程など量産品と比べて格段に難しい管理が求められ、不具合発生時の処理などに問題がある。たんなる下請け製造の組織を超えるしくみが必要で、現在IT管理システムを構築中である。また、充分に対応できる組織設計ができているかなどの検討も必要である。
・事業特性から労働環境は厳しく、従業員モチベーション維持に留意が必要である。

4.従業員アンケート調査の実施と結果分析・提言
1年に1~2回従業員のモチベーション向上施策に向けてアンケートを実施しているが、従業員の本音がつかめていないとの問題意識の提示があり、当研究会でアンケートを実施することになった。
⑴ 当研究会のアンケート調査の特長
①研究会より直接全従業員へ配布/回収で会社に見られない工夫
②従業員の満足度、疲労感などを、職種別・職階別・年代別など網羅的に把握
③個社の状況や組織の状況に応じて調査項目を設計(オーダーメード型)
④調査結果について、要因を分析するとともに改善に向けた施策を提案
・年代別・職種別・年代別などの切り口でデータを整理
・スコアの低い項目を抽出し経営者意見を踏まえ改善事項を整理
・経営陣とのギャップ分析を実施(経営陣もアンケートに参加)
⑵ アンケートの実施と分析結果
2018年4~5月にアンケートを実施し、6月に役員に分析結果報告を実施した。
①アンケート内容
チームワークとコミュニケーション、情報共有と社内連携、企業理念の理解と実践、仕事のやりがい、意見具申と会社運営への反映、仕事の取組状況など合計37問となり、フリーコメント欄も相応に盛り込む内容となった。従業員アンケートと対に役員向けも作成した。
人材や組織に関する項目に加えて、当社の業務の流れを俯瞰して、スムーズに業務が流れているかを把握できるような項目設計とした。
設問の一部を目的別に分類して示す。

 

②役員への分析結果報告
・企業理念などを理解し意欲を持って業務に取り組んでいるポジティブな回答が大多数を占めているものの、残り3割程度のネガティブな回答があり、これに焦点を当てた分析が必要なことを説明した。
・労働環境、従業員の士気、職場内コミュニケーション、部署間コミュニケーション、部門別、階層別などの意識の相違の観点から、全体感を提示した。
・マズローの欲求5段階説の欲求段階ごとに従業員のネガティブな回答内容を整理し、一般的に考えられる原因・対策・提案を記載し報告した。

・フリーコメントについても個人を特定できないように配慮したうえで全量を提示
③役員の反応とその後の施策
当社は従業員施策を充分行ってきたにも関わらず、ネガティブな回答が多いことに衝撃を受け、対応策を検討し従業員に説明するとの決意表明があった。
その後、アンケート結果を踏まえた中期経営計画の見直しを実施した。
・ビジョンに「社員が自信と誇りを醸成する『企業風土』を創る」ことを追加
・部課長のみならず役員に求められる人材像を明示
・人材育成に係る具体的な取り組み(定期個人面談、意見具申制度、自己啓発支援制度、プロジェクト活動奨励、評価制度改正)を明示

5.具体的な施策展開に向けた取り組み
その後のフォローアップで、社内の展開が進んでいない下記の状況が判明した。
・分析結果をどこまで従業員に説明するかを検討中
・分析結果を部門ごとに展開する方法を検討中
アンケート調査は、雰囲気をつかむことに留めず、従業員に適切に結果報告を行い、具体的な施策に結びつけるための一段と深い分析や結果を踏まえたヒアリングによる状況確認などが必要となる。そこで下記の継続支援を行った。
①従業員への説明資料の作成と提供
従業員に伝えるべき内容の選別と不要な衝撃を受けない表現で分り易い資料にして提供した。

 

②アンケート結果の更なる深堀分析
アンケート設問を目的別に色分けし部門ごとにネガティブな回答を集計し、全社の業務の流れのなかでの各部門の状況や課題を分析した。
部門ごとのネガティブな回答の分布を示す。

単にネガティブ回答が多いだけでなく、経営陣が課題を抱えていると認識しているにも拘わらず、ネガティブな回答が少ないすなわち課題が認識されてないと推測される部署についても考察し、下記の状況を推測した。
・業務環境が厳しい製造部門のモチベーションは極端には低くないと思われる。
・生産や製品不具合発生時に処理に関わる生産管理部門にネガティブ回答が非常に多く、業務分担などの組織設計にも問題を抱える可能性が大きい。
・提案営業を期待されている認識がなされていない可能性が大きい。
全社を見通して、各部門における推測される課題とそれに対する解決案をまとめて報告した。

 

アンケートの結果分析では、どの部署にどのような課題があるかは推測できるが、実際の課題の特定にはアンケート結果を踏まえて、各部門長などによるヒアリングと分析が必要であり、実施の申し入れを行った。
③その後の対応状況
当社は、この結果を受け組織改革に着手し、加えてコミュニケーション活性化のために事務所建設を行った。
・生産管理部門が営業と工場とを繋げる役目を果たしてないため、IT管理システム稼働も踏まえ営業と工場とを直接結びつける業務内容に変更している。
・営業部門の強化のために商品事業部を新設し、アルミ鋳物製造関連設備の反転装置のユーザー(45社)の無料メンテナンスを梃子にして追加導入ニーズ、同業他社の紹介などに繋げる営業活動を展開する。
さらに、東京都区部に営業拠点を設け、中長期的には新卒の営業マンを毎年確保することを検討していく。
・経営方針を策定する経営企画室を、旧知のコンサルタントを社外取締役として迎えて新設し、将来の事業承継にも取り組んでいく。

6.今後の支援の展開
当社は顧客の営業事情により受注の減少に見舞われており、経営者を中心にトップセールスを展開している。その影響で組織改革は停滞気味と思われる。
一方で、作業量減少で従業員には余裕が生じていると思われ、組織改革の好機である。それには経営陣が一丸となって当たる必要があり、将来の後継者候補を含めた議論の開始を提案している。具体的には次のポイントでの議論を考えている。
・アンケート分析を踏まえ、課題を解決するための組織のあり方
・従業員モチベーションの向上施策
・フリーコメントの分析を活かした業務改善
また、今回の受注減のような受注変動を少なくするような事業構造の改革も重要な課題である。そのための営業活動とともに、それに対応できる組織への変革も必要となる。
当社が中堅企業に成長してきたのにともなって、拡販展開や組織改革にも、充分な調査や分析に基づいた施策策定が必須となっている。これらは中小企業診断士の得意とするところであり、今後も寄り添って支援していきたい。
さらに、いろいろな得意分野を持つ人材グループでの支援の特性を活かして、人事管理やITシステムなど幅広い支援を継続していきたい。