中央支部 みんなのプロコン塾~活躍する診断士の王道、テオリア・メソッド!
(略称:『みんプロ塾』) 野見山 真成
1.ツール開発の経緯
平成25年に小規模企業活性化法が施工されて以降、中小企業・小規模事業者を支援できる中小企業診断士のニーズが高まっている。また小規模事業者への支援の在り方として、平成26年に施行された「経営発達支援計画」に基づいて、「伴走型」で支援する姿勢が求められている。
小規模事業者を支援するにあたっては、経営者の以下のような悩みに留意が必要である。
①実際に中小企業施策を活用しようと思っても、毎日の業務が忙しく、経営者といえども現場での仕事をしており、とても手が回らない。
②やるべきことは分かったが、だれが、いつ、どうやって進めていけばいいのか(経営資源に限界がある)。
こういった悩みをもつ小規模事業者向けの支援では、事業の持続的発展に繋げるためにも、具体的かつ小規模事業者の身の丈にあった提言を行う必要がある。「ソリューション・プロセス・マップ(以下、SPMと記載)」は、こうした小規模事業者への明日からできる提言を導き出すために最適なツールである。
SPMは、「みんプロ塾」の代表である八木田鶴子氏が約25年にわたる独立中小企業診断士としての経験で培ったものをベースに、中小企業・小規模事業者のための経営戦略策定ツールとして開発した。平成28年9月に特許庁に「ソリューション・プロセス・マップ」として商標登録されている。さらにSPMを含めた中小企業支援の戦略策定ツールを「テオリア・メソッド」として体系化し、商標登録されている。
本ツールは中央支部マスターコースの「みんプロ塾」にて平成26年の発足以降、毎年2社の経営診断の実施で利用しておりブラッシュアップを続けている。本論文では開発ツールを、実際の導入事例を交えて報告する。
2.ソリューション・プロセス・マップ(SPM)の概要
SPMは、「明日からでも着手できる具体策(アクションプラン)」から、段階を踏んで課題解決を行い、最終目的である「目指すべき事業ドメイン」を達成するための戦略の体系図である。
①SPMの右端には、上位概念として目指すべき事業ドメインを置き、左にはそれを目的とした課題として重要成功要因(CSF)を抽出する。
②CSFを実現するために、さらに具体的な施策に分解し(アクションプランへの落とし込み)、最終的には左端の「明日からできる施策」に行き着く仕組み(図表1を参照)である。
SPMを利用した経営診断では以下2点の利点がある。
①現在すべきことから目指すべき未来の姿へ時間軸(プロセス)となって表現されている。
②目指すべき事業ドメインを達成するために、現在すべきアクションプランにまで落とし込まれた戦略の体系図となっている。そのため、アクションプランがCSF達成につながっているか、整合性を検証しながら、継続的にブラッシュアップを図ることができる。
3.SPMを作成して経営診断を行う流れ
相手先企業へのヒアリング直後から報告書を作るまでの流れにおいて、SPMを作成する場面・位置づけについて説明をする。SPMを活用した経営診断では、まず経営者の想いに沿って将来ビジョン、事業ビジョンを見出す。そして、ヒアリング時に「直感」で閃いた改善策の仮説=革新性、「論理的」に導き出した改善策=合理性、SPMの作成を通じて「革新性」と「合理性」のある提言を行うことができる。
上記の提言を行うために、報告書を作成する過程でSPMを2度作成するのが本ツール活用のポイントである(図表2を参照)。
・③SPM作成の場面
社長の想いのヒアリング直後やSWOTなどの情報を整理していくことで、過去の経験や他社の類似ケースから課題が直感的に出てくることがある。こうした閃きによる課題や改善策を仮説として、SPMに体系図として収束させる。
・⑩SPM完成の場面
クロスSWOTなどの上位概念から、重要成功要因の抽出、アクションプランを論理的に導き出し、③の閃き(直感)から作成したSPMの結果と突き合わせし、ロジックと直感の両面からSPMを完成させる。
SPM はチームでの企業診断を行う場面で効果を発揮するツールであり、ワークショップ形式で進めることでチーム全体での提言の方針統一、各個人によるブレをなくした提言が可能となる。
4.導入事例
(1)事例企業の概要
A社は首都圏近郊で不動産販売代理業をコア事業とした不動産業を営んでいる。設立は平成9年10月、創業して20年以上が経っており、創業者である経営者は事業承継を控えている。資本金は4,500万、従業員数は26名である。平成30年10月から平成31年2月にかけて、「みんプロ塾」メンバー9名でA社の経営診断を行った。
A社へヒアリングを行う中で挙がった経営者の想いを2点挙げる。
①新築物件の販売代理業に売上を依存しており、将来を見据え事業の柱を増やしたい。外国人向け市場や中古マンション市場が拡大しているものの、機会をとらえきれていない。
②事業承継を見据え、ビジョン・事業計画を明確にしたい。社長を中心に創業20年以上経営してきたが、キーマンの専務・息子の取締役へ、どのように事業承継を進めていくべきか悩んでいる。
そんな経営者の想いを汲みながら、A社の新ドメインを「首都圏に居場所を求める人々に最適なライフスタイルを提案する住宅コンサルティング会社」と定義し、経営診断を進めた。
(2)SPMの作成
A社の新ドメインを実現するためには経営基盤の強化が必須であり、主要成功要因(CSF)として以下の6つを設定した。
1)外国人向け賃貸事業の売上を拡大する
2)中古販売事業の売上を拡大する
3)既存の販売代理ビジネスを活かす
4)社員のモチベーションを向上させる
5)ITを活用した業務改善を行う
6)ビジョン・事業計画を明確にし、事業承継を実施する
新ドメインおよびこれらの主要成功要因を実現するためのSPMを作成した(図表3を参照)。
図表3の完成形のSPMに至るまでに、ワークショップ形式でSPM作成を進めている。参考までに、ヒアリング直後の仮説ベースで作成したSPM(図表2の③参照)と、完成時のSPM(図表2の⑩参照)を記載する(図表4を参照)。
(3)SPM作成の効果
SPMを活用した経営診断を行ったことで、本事例では以下の効果を得ることができた。支援先、支援者それぞれの観点で記載する。
①支援先側の観点
1)長期ビジョンを達成するための、明日からできる具体的戦略の立案
経営診断の結果、経営者から「提案していただいたことはよく分かったが、誰がどう進めていけばいいのか?」となり、提言内容がその後の行動につながらないケースがよくある。SPMを活用した診断により、長期ビジョンを達成するための明日からできる具体的戦略を立案したことで、先方の経営者の今後の行動を後押しする計画策定につながった。
2)従業員への長期ビジョン(新ドメイン)と、現在やるべき具体的行動の落とし込み
経営者の中には自身の想いを従業員へ伝えられず悩んでいるケースがある。本事例では、経営診断後にA社の幹部・若手社員向けへ、A社の今後の成長戦略をテーマとした説明会を実施した。その際にSPMを活用したことで、経営者が実現したい長期ビジョンに向けた現在取組むべきアクションプランを、社員へ視覚的に落とし込むことができた。
②支援者側の観点
1)具体的行動をフォローアップする継続支援
経営診断と並行して経営革新計画作成の支援をしていたが、平成30年10月に策定、平成30年11月に承認された。SPMを作成したことで、A社が明日から取り組むべき課題が明確になり、経営革新計画の実現に向けた具体的行動をフォローアップする継続支援につながった。
2)中小企業支援者として継続的に支援ノウハウを磨く
「みんプロ塾」では塾生による毎年2社の経営診断を行なっているが、継続支援に至っている支援先は5社以上ある。「みんプロ塾」の経営診断では、支援先への成果物としてSPMを必ず提供しており、前記の経営革新の支援をはじめ、継続支援の依頼をいただくケースが非常に多い。継続支援を行っていくことで、メンバーは中小企業支援者としての支援ノウハウを継続的に磨くことができる。
3)チームによる経営診断でスピードと高品質を追求
SPM はチームでの企業診断を行う場面で効果を発揮するツールであり、チーム全体での提言の方針統一、各個人によるブレをなくした提言につながった。経営者の想いをとらえた直感的にとらえた仮説とロジックによる両面のアプローチにより、スピードある高品質の経営診断を行うことができた。
5.今後の展望
SPMを活用した経営診断は、小規模事業者の継続的発展を支えるために有効なツールである。「みんプロ塾」では経営診断を通じて、塾生がSPMを活用した中小企業支援者への支援ノウハウを習得している。今後の展望として、より多くの中小企業・小規模事業者の支援ができる中小企業診断士を増やすのが「みんプロ塾」の使命だと考えている。
現在「みんプロ塾」を卒業した塾生の中で、実務従事の指導員としてSPMを活用した経営診断を行うメンバーが増えてきている。SPMを活用した経営診断はチームでの診断で効果を発揮する。そのため、活用できる指導員を増やしていくことで、より多くの中小企業支援者を増やすことにつながると考えている。
「みんプロ塾」としては中小企業支援者を増やすことで、より多くの小規模事業者の持続的発展につなげていきたい。