DRM研究会 小林雅彦・原田隆治
営業力を科学する売上UP研究会 畠山廣敬・渡邉卓・村上和也

1.両研究会による企業支援の実施
「DRM研究会」と「営業力を科学する売上UP研究会(以下、売上UP研究会)」は、合同のプロジェクトを立ち上げ、双方からの選出メンバーがチームを組み、両研究会のシナジー効果を生かして実際の企業を支援する取り組みを2021年3月から開始している。

2.具体的な支援内容
(1)支援企業の概要と課題
今回のプロジェクトで支援した企業は、大手飲料メーカーの新規事業として2018年に設立されたスタートアップのA社である。役員1名、従業員2名で構成されており、「工場を持たない食品メーカー(以下、生産依頼企業)」と「食品工場企業」をウェブサイト上でマッチングするという新しいビジネスに挑戦している。(図表1参照)

生産依頼企業は、自社で企画した食品を商品化するため、OEM生産ができる食品工場を探す必要がある。また、食品工場企業側も工場の稼働率向上などのためにOEM生産の発注元を探している。しかし、多くの企業の中から最適な相手を見つけるのは非常に難しい。A社社長も自身の業務経験からそのことを痛感していた。
そこで、マッチングサイトを使って最適な相手を簡単に見つけられる図表2のようなビジネスモデルを考えたのである。A社のこのサービスは、Face to Faceでの営業が難しいコロナ禍において、その存在価値が増している。
すでに約400社の生産依頼企業と約500社の食品工場企業がこのサービスの会員として登録していたが、A社社長は「生産依頼企業の登録数をもっと増やしたい」「登録した会員同士のマッチングをもっと促進したい」という課題を抱えていた。(A社のマッチングサイトのイメージは図表3参照)

そこで、本プロジェクトでは、デジタルマーケティングを得意とする「DRM研究会」と、顧客の心理・行動の科学的分析を得意とする「売上UP研究会」の双方の強みを生かし、A社の課題解決に向けて、問題点の分析から提案・対策の実施まで取り組んでいる。

(2)提案内容
まずA社の現状を分析した。われわれが注目したのは、図表4からもわかるように、A社の顧客は、「会員登録」から「マッチング」に至るまで、いくつかのステップを踏んでいくという点である。そのステップ毎に現状を分析し、問題点①~③を抽出した。

これら問題点①~③について、図表5のように原因を深掘りし、対策①~③と、それによって改善すべき指標を定めた。

対策①:SEO対策の強化
図表6のように、A社はこれまでもキーワード広告を実施しており、特定の4つのキーワードで検索した際にはA社のサイトは検索結果の上位に表示されていた。しかし、その他のキーワードで検索されてしまうと、上位には表示されない。そこで、その他のキーワードでも上位に表示されるよう、新たに61種類ものLP(ランディングページ)を用意し、それらについてSEO対策を施した。

対策②:登録項目の改善
この対策の検討に先立って、われわれはA社の会員である食品工場企業2社にインタビューを実施した。その結果が図表7である。

図表7の<1>、<2>については、ともに生産依頼企業の情報がわかりにくいという問題点を浮き彫りにしている。
そこで、まず<1>について分析した。確かに、現在の生産依頼企業の登録情報の書き方は統一されておらず、依頼内容も「昆虫食のパウダーおよび加工品開発にご協力いただける食品メーカーや工場を探しています」という詳しいものがある一方、図表8のように、「オリジナルの瓶詰め商品などの製造」のような大雑把な表現で、これだけでは自社工場で対応できるか判断しかねるものも多い。その原因を分析したところ、案件入力画面の説明が不十分であることが判明した。そこで、図表9の【A】のように、書き方のポイントや、わかりやすい記入例を複数表示するなどして、どのように書けばいいか、生産依頼企業が情報を登録する際にイメージを持てるようにした。

また、図表7のインタビュー結果の<2>からヒントを得て、図表9の【B】のように、「工場監査・立ち合い」の要否や「製造ロットサイズ」など、食品工場企業が重視する登録項目も新設した。

対策③:案件紹介メールの改善
A社は週1回、食品工場企業に対して、各社に適する生産依頼企業の情報を抽出し「案件紹介メール」として送信している。図表7のインタビュー結果の<3>のとおり、食品工場企業はこのメールをもとに生産依頼企業を探しているのが実態であり、メールをいかに開封してもらうか、メールの本文に何をどのように表示するかが非常に重要であることがわかる。そこで、図表10のような案件紹介メールの表示内容に関する改善案をいくつか提案した。

(3)対策の実施と改善効果
対策を実施した結果、図表5で定めた指標がどの程度改善しているかを見てみる。

対策①(SEO対策の強化)の改善効果
対策①の改善すべき指標である「検索からのアクセス数」は、図表11のとおり、対策を実施した2021年4月27日の前後10週間で比較した場合、33%増加していることがわかった。

また、アクセス数が増加しただけでなく、その結果、もうひとつの改善すべき指標である「生産依頼企業の新規会員数」も、図表12のとおり、対策実施前の1.8倍に増加している。
これらのデータから、対策①については、すでに十分な改善効果が出ていると言える。

対策②(登録項目の改善)の改善効果
対策②を実施した結果、図表13のとおり、生産依頼企業と食品工場企業とのやりとり(メッセージ数)が34%増加しており、生産依頼企業の登録情報がわかりやすくなった効果が出ていることがわかる。

対策③(案件紹介メールの改善)の改善効果
対策③については、開発規模の小さい簡易な改善は2021年7月5日に実施済みだが、開発規模の大きい本格改善は2021年12月以降に実施予定である。したがって、本論文の提出時点では、簡易な改善による効果のみ測定できている。
対策③の改善すべき指標である「案件紹介メールの開封率」は、図表14のとおり、改善前に比べて、1ポイントではあるがわずかに上昇している。本格改善が実施されれば、この効果もさらに大きくなると思われる。なお、対策③のもうひとつの改善すべき指標「食品工場企業からの探索数」についても、本格改善後に効果測定をする予定である。

以上のとおり、本論文の提出時点では、まだすべての対策が実施されてはいないが、すでに実施した対策については、おおむね期待どおりの改善効果が出ている。今後、その他の対策についても実施され、すべての改善効果が出揃う予定である。

また、上記の対策とは別に、登録会員向けに、登録情報内容の重要性や登録する際の書き方を解説した「チュートリアル動画」の作成も提案しており、これが実施されれば、対策②の改善効果もさらに高まることが期待できる。

3.今回の支援活動について
このように、両研究会は初の試みとして、合同で実際の企業支援を行っており、双方の強みを生かした提案がA社の課題の解決につながるなど、すでに一定の成果も出している。A社社長からも、「改善効果が数値としてはっきり出ており、今回支援いただいた内容にはとても満足している。われわれのようなリソースの少ない会社がつい後回しにしてしまう課題についても、しっかりと提案し、一緒に取り組んでくれたことは、大変ありがたかった」と、高い評価をいただくことができた。この取り組みによって、食品業界におけるA社の存在価値を引き上げるとともに、コロナ禍においてOEM生産のマッチングがままならない食品業界全体を少しでも活性化できれば、幸いである。