城西支部
情報管理研究会
湯山 恭史

1.情報管理研究会の概要
情報管理研究会は、1993年に城西支部の研究会として設立された。「中小企業を変革するIT活用」をテーマとして掲げ、20名以下の従業員の事業者を想定し、少ない費用で効果的なITを活用する仕組みづくりを研究している。
毎月、第3土曜日の午後に定例会を開催しており、定例会では、原則2名の会員が発表している。11月には、外部講師を招いた研修会を実施し、最新IT動向の把握にも意を配っている。また、10年以上にわたり「中小企業のERP」の調査および研究を行っている。
ITシステムは中小企業においても導入が進み、営業・経理・調達・設計・生産など会社のあらゆる部署で業務の効率化に寄与している。その一方で、システム間の転記など、人手作業が大量にあるのも事実である。これら、システム周辺の人手作業をロボットに任せようという、RPA(Robotic Process Automation)という仕掛けが最近脚光を浴びている。当研究会でも、2018年の重点テーマとしてRPAの研究活動を推進し、その結果として定例会での報告4件をまとめ、さらにその成果を基に「RPAいちばん最初に読む本」を上梓してRPAの普及に一定の寄与することができた。

2.RPAは今とても注目されている
⑴注目される背景
少子高齢化などによる労働人口の減少により、人手不足はますます深刻なものになっている。
また、労働生産性は特に中小企業においてその値も改善度合いも、大企業と比べ低水準となっている。
また、「働き方改革」が国の重要施策として取り上げられ、多くの企業・団体で働き方改革活動が進められている。
この活動の中に、働く時間の量的・質的改善があり、やはり生産性の向上が求められる状況にある。
RPAはホワイトカラーの生産性向上に大きな効果をあげると宣伝されており、イベントやセミナーなど多数開催される状況になっている。
人手不足に悩む中小企業の経営者からの期待感も大きく、質問を受けた診断士も多いと思われる。

⑵RPAビジネスの盛り上がり
RPAベンダーには、ロボットとロボットを動かすスクリプトを提供するRPAツールベンダと、スクリプトの作成や人材の派遣などのサービスを提供するRPAサービスベンダがあり、その数はこの1、2年で急増し数百に及ぶと言われている。
RPAツールベンダは、次の3種類に分類できる。

①グローバルリーダ
2000年前後に海外で発売され、市場の形成を牽引してきた。日本法人の立ち上げは2017年ごろで、後述の国内先行ツールよりは遅れているが、グローバルの実績をテコに、強力なマーケティング活動を繰り広げている。
海外進出や海外企業との連携を考える中小企業にとっては有力な選択肢となる。
②国内先行ツール
日本市場の立ち上がりは2010年頃になる。先行する国内ツールベンダが、国内に販売とサポートのネットワークを築き、市場を盛り上げてきた。現状でも、大きなシェアを持っている。
国内での実績を重視したい中小企業にとっては有力な選択肢となる。
③新興ツール
RPAが国内で大きな注目を受け始めた、2017年から多数の新興ツールが登場している。これらのツールは、さまざまな特色を打ち出しており、価格帯を低く抑えているのが共通的な特徴である。
導入費用を抑えたい中小企業にとっては有力な選択肢と考えられる。

RPAサービスベンダの例としては、ロボットに仕事を教えられる(スクリプトを書く)人材の育成と、その人材の派遣サービスという事業に取組んでいる大手人材派遣会社がある。
後で述べるように、RPA人材の確保は重要な課題になってくるので、今後、RPAに関連した各種のサービスがさまざま展開されてくると思われる。業界の動きに対して、継続的な注目が必要である。

⑶RPA導入ユーザの増大
調査によれば、現在は大規模から中規模の企業の導入が多いが、小規模企業からの問い合わせや導入が増えてきており、中小企業への導入が今後進展するものと思われる。導入部署としては、経理・財務や営業などペーパーワークやスプレッドシートを使った業務が多い部署が中心となっているようである。
導入は、現場主導で特定の業務改善からやってみるというボトムアップ的に進めるものと、全社プロジェクトで専任体制を作ってトップダウン的に進めるものがある。それぞれ一長一短はあるが、いずれのケースにおいても、①情報セキュリティ②野良ロボット化③システム改修時の誤動作などのリスクに対して、あらかじめ検討をして運用実態に合った対応策を決めておくことが肝要である。

3.RPAの実践取組事例
⑴支援先の概要
支援先は、建設資材の卸売り・設置工事を行う、従業員70名ほどの企業であり、東京都と静岡県などに拠点を持っている。
支援先は建設業法の許可を保有しており、報告者は行政書士でもあることから、建設業法の許可申請を支援してきた。

⑵支援内容
当初は、行政書士としての支援を行ってきたが、報告者の企業での経験および中小企業診断士としての資格を活かし、情報セキュリティの現状診断と対応の指導を行うようになった。さらに、支援先の社長から、建設資材の手配業務が煩雑で何とか効率化したいとの話を聞き、RPAでの支援をすることになった。支援は大きく以下の3つの内容からなる。

①ツール導入の支援(お勧めする)
支援先でも、あるITツールの導入を検討していたが、難易度が高すぎて導入しても定着しないだろうと判断し、より現場にフィットしたRPAツールを紹介し、現場の理解を得て紹介したツールを導入することにした。
RPAツールや関連サービスは日々生まれているので、最新状況をウォッチし紹介できるように整理しておくことが大事と考えられる。
②中規模課題の解決(つくってあげる)
前述のように、RPAはシナリオを書かないとロボットとして動作しない。通常のITシステムと比べ、シナリオを書くハードルは低いが、それでも現場ですぐにできるものではない。そこで、報告者自身がスキルを身につけ、建設資材の手配業務を始め数種の業務を行うロボットを実際に作り、その効能を支援先に実感してもらうことにした。
RPAもITの一種ではあるので、業務フローの改革をしたうえでRPA化をすべきという意見が当然ある。ただし、RPAは比較的短期間に開発できるものであり、業務フロー改善に時間をかけすぎると全体としてバランスを失することになりかねない。この匙加減は難しいところであるが、今回は効果実証を優先させるため、業務フローの改善は最小限とした。
③シナリオ作成人員の養成(教えてあげる)
シナリオ作成と並行して、事務の現場で転記作業などを担当している方々と、支援先のIT担当の方を対象に、RPAの概要を講習し実習形式で指導を行った。当初は、RPAツールの機能をできるだけ網羅するような形で指導を行っていたが、受講された方の「単純な転記作業だけでも結構ある。それに必要なところだけ教えてもらったほうが良い」という声を頂戴した。どうしても、難しいことを教えようとしていたと反省し、講習内容は簡単なものにして、あとは持ち寄っていただいた課題で、OJT形式の指導をするように改めた。
報告者自身が、教えることが苦手ということもあって、悪戦苦闘気味の状態ではあるが、現場で事務を担当されている方が立ち上がりつつあり、少しだけ成果を実感しつつある。

昨年末までに、一通りの支援活動を行い、得られた効果は下記の通りである。
【定量・定性的な効果】
①事務職員10名が毎日2時間程度EXCEL帳票の入力・転記を行っていた。RPA化することで、その半分(1時間)の時間短縮が実現できた。よって、定量効果は200時間/月である。
②RPAは比較的容易に業務を自動化することができるため、現場の事務職員自ら業務改善をするきっかけとなり得る。職場の改善意識向上という定性効果があった。

現在はその延長上で「働き方改革プロジェクト」の支援を行っている。このプロジェクトの中で、基幹ITシステムの改修に加えて、RPAの適用拡大の話も出ている。これまでの活動を基盤としつつも、より広範囲に展開していくために、ベンダーの活用を含めたステップアップ策を支援先と相談しているところである。

4.中小企業診断士にとってのRPA
報告者のRPA支援はまだ進行中であるが、中小企業診断士の立場からRPAはどのように見えるかを、これまでの経験から述べる。
RPAは、現状は大企業中心に導入が進んでいるが、今後中小企業にも導入が波及していくと見ている。また、導入費用も効果も従来のITと比べると小さいので、現場に近いところでロボット化し運用するのが望ましいと思われる。いわゆる内製化である。
とはいっても、現状のRPAツールはITの素人の方にとっては、まだまだ難しすぎるので、仲立ちをする人が必要である。ITについてある程度の素養のある中小企業診断士が、支援先の業務改善の一環としてRPAに取り組むことは大いに意味のあることではないかと、今回の経験を通じて感じた次第である。