終活ビジネス研究会
尾形 博、八木 則茂、齊藤 睦美

1.はじめに
 当研究会は、「エンディング産業No.1のシンクタンク」を目指して、葬儀業をはじめとするエンディング産業についてのコンサルティング、業界研究を中心に活動している。本稿で紹介する「葬儀社診断ツール」は、葬儀社向けに特化し開発した企業診断ツールであり、エンディング産業No.1のシンクタンクを実現するための重要なツールである。

 

2.葬儀業界について
 当研究会の主な対象先である葬儀業界について説明したい。葬儀業界は、大きく2つのグループに分けられる。1つは、互助会組織による大手企業である。これは互助会組織として経済産業大臣の許可を受けている企業であり、広域で営業し上場企業も多く存在する。もう1つは、地域に根ざした営業を行う中小企業を中心とする葬儀社である。当研究会では、中小企業である葬儀社に対する支援を中心に活動している。
 葬儀業界は、高齢化にともなう葬儀件数の増加と、葬儀に対する意識の変化にともなう葬儀1件あたりの単価減少が同時に進んでいる(【図表1】参照)。一方で、葬儀社の事業所数は増加しており、葬儀社は、葬儀単価下落、競合激化にともなう1事業所当たり売上高の減少という脅威(【図表2】参照)に対し、取扱葬儀件数の獲得と葬儀件数増加にともなう業務の効率化に取り組む必要に迫られている。

 

3.葬儀社診断ツール開発の経緯
 当研究会は、葬儀業界の支援、経営力向上を目的とし2013年から継続的に企業診断を実施している。当初、1社の診断から始まったが2019年には診断先は5社まで増加した(うち3社は継続実施先である)。当研究会は、葬儀業界に特化した7年間の企業診断の実施により、葬儀社経営診断のノウハウを蓄積してきた。しかし、毎年診断をしている中で、以下のような課題もあった。

(1)感覚的には、「良い会社」「改善余地のある会社」などのイメージはもっているが、どうしてなのか客観的な根拠をもっていない。
(2)毎年4~5社程度の診断を行っているにも関わらず、診断方法がバラバラであり、同一基準で診断企業の比較ができていない。
(3)毎年多くの情報が蓄積されているにも関わらず、データベース化されていないため有効活用できていない。
(4)毎年診断メンバーが変わるため、前年度から継続して診断する葬儀社でも経営状況が調べ直しになってしまう。

 このような課題を解決し、スコアリングにより診断結果をデータ化するツールが「葬儀社診断ツール」である。2019年は、このツールを活用し、5社に対し企業診断を実施した。これにより、葬儀社の診断結果が同一基準で「見える化」され、葬儀社の課題が一目瞭然に把握できるようになった。

 

4.葬儀社診断ツールの概要
 「葬儀社診断ツール」は、企業の将来性を測ることを主な目的とし、項目は、【図表4】のとおり①経営戦略②受注獲得③単価アップ④アフター⑤人事・組織の5つのカテゴリーで構成される「スコアリングシート」になっている。このカテゴリーについて全部で103項目の質問を設定し、回答結果を判定することにより評価が確定する。評価を客観的にわかりやすくするために、各項目をスコア(点数)化し合計400点満点で評価している。したがって、合計点が高い企業ほど活性化しており、今後の成長性が見込める構成となっている。
 なお、財務指標は過去の実績値であり基盤拡大・成長性といった将来性を評価する指標としてふさわしくないため、評価対象項目からはあえて除外した。中小企業にとってもっとも重要な「売上増加」を実現できる「マーケティング」を重視する内容となっている。

 

5.葬儀社診断ツールの特徴
 葬儀社診断ツールは、以下のような特徴がある。

(1)葬儀社経営データの数値化による企業診断の質の高度化
 葬儀社診断ツールの各質問項目は、過去のデータやノウハウを体系的にまとめ、当研究会の会員の知見において最良の状態が最高評価となるように設定し数値化(スコア化)したものである。つまり、仮想の業界トップ企業を表すのが最高点であり、最高点と自社のスコアとの差により自社の強みや弱みといった特徴が一目瞭然で把握できる。診断時の企業の状況を数値により的確に把握できるため、診断時の課題に対し適切な対応策の提案を行い診断の質を高めることが可能となるのである。しかも、毎年継続的に実施することによるスコアリングデータの蓄積により業界平均値を算出し、平均値との比較で診断先の立ち位置を客観的に知ることもできるようになる。
 また、スコアリングにより、定性的な経営状況が数値化されることにより、診断先の経営方針策定時の参考になり、診断時の改善提案についても、「なぜ必要なのか」について診断先への納得性も高まる。

(2)診断担当者の経験の有無に左右されない企業診断のレベル維持・均質化
 企業診断は5名前後のメンバーで実施するが、新たな視点を生み出すために毎年メンバーを変えて、さまざまな経歴のメンバーで構成している。研究会の会員は、ベテランの診断士、葬儀業界とあまり関わりがない診断士、経験がまだ浅い診断士などさまざまである。このような状況の中、このツールは葬儀社診断の経験が浅くても扱いやすいように設計されており、簡単なチェックで診断企業の特徴が把握できる。誰がチェックをしても同じ点数がつくよう定量的に判断できる項目を多く配置しており、診断員によるスコアの差も最小限になる。

 

6.スコアリングの手順と企業診断について
 スコアリングを実施する企業診断は、次の手順により行う。【図表5】は、スコアリングの例として「WEBでの獲得」の項目を紹介したものである。

(1)ヒアリング
 企業診断に必要な内容全般についてヒアリングを行う。スコアリング対象となる各項目については、前回の内容を確認のうえ最新の情報にアップデートする。

(2)評価
 ヒアリングでの確認結果を、診断ツール各項目の評価基準に基づき評価する。【図表5】のとおり、評価基準は具体的に明記され客観的に評価できるようになっており、評価者間で差が発生しにくい仕組みとなっている。評価が決定すると、自動的にその項目のスコアが決定する。なお、重要な項目については、重みづけにより評価基準のスコアを調整している。スコアを集計することにより、対象企業の各カテゴリーの合計スコアが確定し、各カテゴリーの「強み」「弱み」がスコアの数値の大小により見える化される。

(3)提案項目の選択
 評価結果に加え、対象企業の「機会」と「脅威」などの経営環境も確認しSWOT分析を実施する。SWOT分析の結果もふまえ、スコアリング対象項目の中から診断時点で各企業にとって最適となる提案項目を選択する。

(4)提案内容の検討と提案
 決定した提案項目について具体的な提案内容を検討する。提案内容は、過去の他企業の提案事例も参考に、最新の業界動向もふまえ対象企業に最適となる内容にカスタマイズする。診断企業には、スコアリングの結果も含めた提案理由を説明し、経営課題とその改善方法を提案する。

 

7.スコアリングによる企業診断の実施

(1)2019年企業診断の概要
 2019年に実施した企業診断のスコアリング結果は【図表6】の通りである。表の通り、定性的な「経営戦略」などの6つのカテゴリーの状況を定量的な「スコア」に表現できている。このなかでA社、B社、C社は継続して企業診断を実施している先で、D社、E社は、初回の診断である。次に、継続診断先の3社の結果について説明する。

 

(2)事例Ⅰ A社の分析

 A社はV市にて6つの会館を所有し、シェアも20%~30%を占めている、地域において一定の存在感を示している葬儀会社である。
 A社の社長は2020年売上高6億円(2019年度4.86億円)を目標に掲げており、積極的に企業の成長に向き合っている社長だ。

 【図表7、8】がスコアリングの結果である。A社のスコアは総合的に高得点ではあるが、「営業能力強化」が低い。つまり営業員の単価アップスキルが足りないと判断できる。
 そこでわれわれは営業員の単価アップスキル教育に関する提案を行うことにした。
 また、獲得率は70%と高評価ではあるが、WEB獲得による受注提案についても行うことにした。理由は、スコアリングの結果から人事・組織面のレベルが高いことがわかるため、まだ伸びしろがあると判断できたからだ。具体的には、HPでの訴求方法、人目を惹くキャッチコピーやメッセージの作り方などを丁寧に解説した。
 提案の結果、社長だけでなく社員もとても刺激を受けたようである。提案後、店長は各スタッフと頻繁に面談を行い、日々、営業員のスキルアップに努めている。また若手社員はHPの見せ方を研究し、定期的にHPを更新するようになった。このように、診断ツールは弱みを改善するだけでなく、強みをさらに強化して、企業の成長を促すことも可能なツールなのである。

 

(3)事例Ⅱ B社の分析

 B社のW市でのシェアは約20%、地域においてNo.2の地元での知名度も高い葬儀社である。
 スコアシートの分析から、「単価アップ」の営業力、「人事・組織」の人材育成の部分が弱いことがわかるため、戦略実行は、営業力強化のための人材育成から手を付ける必要があると判断した。
 そこでわれわれは、葬儀のカスタム対応ができる営業力強化を提案した。カスタム対応は、葬儀をより充実させるものであることを施主に理解いただいて販売することが必要である。そのため、営業員の教育ができていないとなかなか販売につながらない。
 われわれは、営業力だけでなく、営業員の教育方法に至るまで、詳細に提案した。
 提案の結果、B社の社長はカスタム対応の重要性、人材教育の必要性を十分に理解し、早速、取り組み始めることにしたようである。このように、診断ツールは提案の納得性を高め、診断先の戦略実行に役立っている。

 

(4)事例Ⅲ C社の分析

 C社は、都内の多数の葬儀社が競合する激戦区の中堅葬儀会社である。売上低下などの影響が軽微で、財務上では安定した経営のように見えていたが、【図表11、12】のとおり、A社【図表7、8】、B社【図表9、10】に比べ、総合的に低スコアの結果となった。売上低下が軽微だったため危機感をもてず、過去の診断時の提案を実行していなかったことが消極的経営としてスコアに表れたものと考える。今回の診断では、スコアリング結果をもとに、強みを生かしたアフターの強化、弱みを克服するための葬儀プランの見直し、Webサイトの改良、営業スキルの強化を提案した。
 C社の社長は、診断後、単価下落と施行件数減少に対応する新たな葬儀プランを設定し、ホームページも大幅にリニューアルするなど提案を実行している。これは2018年と比べて大きな変化である。このように、定性的な内容を「見える化」することで、社長の意識改革を起こすことも可能なツールなのである。

 

(5)総括
 診断ツールによって表されるスコアは、企業の経営力を数値化したものである。スコアによる数値化で裏づけされた企業診断の提案は、より説得性のあるものになり実現可能性も高まると考える。診断企業は、自社のスコアを企業の通信簿として経営改善を目指すことができる。診断ツールは、診断を行う側だけにメリットがあるのではなく、診断企業にとっても価値が認められると考える。

 

8.今後の展開
 当研究会では、診断ツール導入にともない、2019年から最高スコアを獲得した企業を表彰する取り組みを開始した。表彰という形式をとることで、診断企業先の競争意識を高めたり、刺激を与えたりすることができると考えている。表彰はまだ1回であるが、診断を積み重ね対象企業を増やすことにより表彰の価値は高まり、当研究会の葬儀業界における存在感も増すものと考える。
 診断ツールは、さらに使いやすくすべく、 ①ツールの開発⇒②ツールによる企業診断の実施⇒③診断結果の確認・ツールの評価⇒④ツールの改良というサイクルで毎年レベルアップしていく予定である。葬儀社診断ツールは、当研究会が「エンディング産業No.1のシンクタンク」に成長するための、重要なツールなのである。
 今後は、葬儀業界以外の業界にもこの「葬儀社診断ツール」の理論を応用し活用する予定である。葬儀業界は典型的な「エリアマーケティング」の業界であり、同様の考え方が通用する業界を選定中である。このように診断ツール活用の対象業界を拡大し、葬儀業界に限らず、幅広く中小企業の活性化に役立てていきたい。