営業力を科学する売上UP研究会
増田 竜雄
鎌田 慎也・田中 和哉・福地 信哉・村上 和也
1.課題認識 ~非対面の営業活動が広がり、商談のパワーシフトが起きている~
従来の営業活動は、訪問による対面営業が大前提である。新型コロナウイルス感染拡大により、ソーシャル・ディスタンスやリモートワークなど、人との接触を控えた生活スタイルや働き方が求められ、営業活動にも影響が出ている。従来の営業活動ができなくなる一方で、非対面の営業活動が急速に増加し、商談のオンライン対応が急務となっているのだ。
対面と非対面では、得られる情報の質と量に大きな違いがあり、これまでと同じスタンスで取り組むことはできない。法人への営業活動を「アポ取り⇒本商談⇒クロージング」とした時、新規開拓においてさえ、対面営業と非対面営業の違い(図表1)を認識して、各営業活動の進め方や力の入れ方を意識的に変えること(図表2)が求められている。本研究では、コロナ禍を機会とし、営業活動の変革、労働生産性の向上を目指すこととする。
2.目指すべき営業活動の姿~クロスチャネルの営業活動で労働生産性を上げる~
営業活動の前提が変わり、今後は、成果向上とコスト低減を両立させる「クロスチャネルの営業活動」(図表3)が求められると私たちは考えている。商談成約率向上のため、商談内容や出席者、生産性をふまえ、どの営業手法を組み合わせ、何に注力するのかを考える必要がある。同時に、自社と営業先の業務効率改善も意識しなければならない。
3.開発する支援ツールの概要
~営業活動の変革へ最適な判断をするための5ステップ~
本研究では、多くの企業が課題に挙げる新規顧客へのアポ取りと本商談にたどり着くまでを対象とした。そして、開発ツールは、従来の新規開拓の営業活動を見直して、クロスチャネルの営業活動を新たに構想し、それを実現させる取り組みのための5ステップ(図表4)である。
ステップ1:変革の方向性の確認(考え方)
オンライン営業への変化の実態は、業界や業種・企業で違いや差がある。業界特性、ビジネスモデルの特徴、相手と自社の状況等から、今後の営業活動の変革の方向性を見極める(図表5)。
ステップ2:新営業フロー構想シート(考え方)
従来の営業フローを改め、自社の新しい営業フローを考え、目に見える形で描く(図表6)。
①オンラインを生かす
自社や見込客がニューノーマル型ならば、オンライン商談を促進する。見込客の関心につながるノウハウをSNSの広告などと併用し、集客につなげる無料オンライン展示会などを開く。
②ネットワークを生かす
自社や見込客がトラディショナル型であれば、ネットワークを活用した得意先や取引先からの紹介を狙う。もともと有望な手法だが、会えない制約のもと、より効果的となっている。
③電話で確認をする
得られた見込客に対し、電話で関心度合いを確認し、さらに有望な見込客を選定する。テレアポの位置づけが、従来の約束を取り付ける場から見込客の選定の場に変わっている。
一方、正確な電話番号を得ることができなかったり、連絡が取れても冷やかしだったり、情報収集中心で次のステップを求めていないことも多くあるので、注意が必要である。
④オンライン商談に誘導する
仕組み化したインサイドセールスで得た有望な見込客に対し、オンラインでの初回の本商談に誘導する。時間調整や移動の手間、心理的負担を軽減できる。
一方で、当日に資料を紙でお渡しすることができないので、商談のわかりやすさや効率化のための事前の資料送付など、これまでの対面とは違う要望への対応が必要になる。
また、画面越しの商談では相手の反応が判断しづらい。また、決裁者が途中から同席しているなど、想定しえないことも起きる。そこで、早い段階から、顧客ニーズにあう課題解決ストーリーを提示し、自社に有利な状況を作り出すことが重要である。
ステップ3:紹介フロー検討シート
多くの中小企業にとって、紹介による新規開拓は既存の信頼関係を活用できるので有意義である。しかし、その人的関係に頼るのではなく、紹介に至る過程で押さえるべき内容(図表7)を事前に検討する。
紹介を狙う場合は、次の5段階で検討する。
(1)商流の見える化
(2)商流上の企業の固有名詞化
(3)紹介シナリオ策定
(4)初回アポイント
(5)初回の本商談
ステップ4:商談の見える化シート
ステップ3の紹介フローのうち、(1)商流の見える化シート(図表8)を使って、自社を中心とした商流を書き出す。不明な場合は、ヒアリングや調査で企業名やキーパーソン・担当者を明らかにする。
ステップ5:紹介シナリオ策定シート
ステップ4で、チャンスがありそうな商流を見出し、紹介元の協力を取り付けるため、紹介元と紹介先の両社に有益な状況を作りだすシナリオ(図表9)を策定する。両社の課題やニーズと自社の強みやできることをつなげて、両社が求める価値を生み出すストーリーであることがとても重要である。
以上5点が、オンライン時代の新規開拓を戦略的な紹介活用手法で進める開発ツールである。
4.取り組み事例の状況 ~典型的なトラディショナル型であるA社~
(1)概要
①A社の営業活動
A社は、住宅や自動車・建機用の部品の受託加工を行っていて、従業員数150名、営業担当は4名である。特定の既存顧客に売上を依存しているので、コロナ禍以前から新規顧客開拓を課題に挙げ、商談会参加を中心に販路開拓に取り組んできた。
②コロナの影響
三密を避ける社会変化のため、商談会や展示会が中止となり新規開拓の機会を失った。さらに、対面営業での関係性構築を優先する傾向にあったので、進行中の案件もすべて中断になった。
③新しい営業フローへの取り組み
6月に入って、A社はコロナ禍の事態を解決するために、本研究で開発中の「オンライン時代の新規顧客の開拓支援ツール」を導入して検討を始めた。営業担当者へのヒアリングなどから、A社の人的ネットワークを最大限に活かす「紹介」を足がかりにすることがもっとも効果的と判断した。その上で、アポが取れたらオンライン商談へつなげることを想定しその実現へ動き出した。
開発ツールの「紹介フロー検討シート」に基づき、A社が紹介先を得て初回の本商談にたどりつくまでの経緯や実施したことを図表10に整理した。
(2)これまでの成果、効果
7月: 戦略的紹介活用手法を用いて、B社の協力を得られ、Ⅹ社とのアポイントを取得することができた。初回の本商談では、コロナウイルス感染防止や物理的な移動距離を考慮し、Ⅹ社にもメリットがあるオンライン商談を提案することで、実施合意を得ることができた。
8月: 初のオンラインによる初回の本商談の結果、X社から建機向け部品8品目の見積依頼を受け、見積りを提出した。見積りの結果は、現在X社で検討中だが、その後も2品目の追加依頼を受けるなど、関係構築を図っている。
(3)A社で今後取り組んでいくこと
①オンライン商談の継続
オンライン特性を踏まえた商談準備を進める。具体的には、会社案内に加え、対面とは違う状況で話をする提案資料の作り方やプレゼン技法の研究、製品加工のこだわりを動画で紹介する準備などである。
②オンライン受発注商談会への参加
A社は、オンライン受発注商談会などへの参加を検討している。そこで、当チームは、現在、開発中の「オンライン対応型の展示会・商談会手法」(図表14)を提供する予定である。
(4)期待される定性的な良い変化
A社は、取引先の紹介からオンライン商談への誘導を図る取り組みなので、定性的な情報が成果測定の中心となる。今後ヒアリングなどの機会を設ける予定だが、新たな付加価値が生まれる良い変化が期待されている。
以下が、ヒアリング項目(案)である。
・新たな挑戦ができたか
・営業部員から前向きな声が聞けるか
・顧客(Ⅹ社)から良い評価が聞けるか
5.本研究の今後の予定
本研究でのA社支援は、本研究会が今後取り組みたいテーマの一部である。オンライン商談のいっそうの普及を想定し、全体像を描いた上で、次のことを研究する予定である。
・オンライン商談向け研修プログラムの構築(進行中)
・オンライン商談の組織立ち上げと社内浸透の取り組み
・労働生産性を高める別テーマの検討
「既存顧客との関係性強化と取引効率化」
「オンラインデータを活用したマーケティングオートメーションへの対応」