三多摩支部 最新IT活用研究会 三村 雅彦

1.当研究会の概要
当研究会は2003年に現在の三多摩支部に設立された。活動目的として「①中小企業の情報化推進(IT化とIT利活用)支援、②研究会メンバーの支援スキルの向上」を掲げ、今年で17年目を迎えた。
参考までに研究会設立時の2003年と2018年のIT環境を比較してみたい。<資料1><資料2>のとおり、ブロードバンドやスマートフォンの急激な普及などITは日進月歩であり、中小企業が自社でIT人材を採用・育成し利活用していくことは困難な状況といえる。

 当研究会では2003年からWebサイト(以下、サイトと記載)の診断・改善の提案を中心に、<資料3>のとおり、およそ30社に対してコンサルティング活動を行ってきたが、クライアントからは「よい提案だけど、当社には手を動かせる人材がいない」という声があった。そのため、当研究会ではクライアントに提案するだけでなく、クライアントに寄り添いどう実装していくかが真の課題ととらえるようになった。そして2014年からは改善提案だけでなく、システムへの実装まで支援している。
2.A社の起業目的とビジネスモデル
起業を支援している東京協会の某研究会から「訪日外国人向けに、自社で企画した小旅行を販売する起業家を支援しているので、システム面を中心にアドバイスしてほしい」との紹介を受けた。A社の概要は<資料4>のとおり。社長は海外の見込み客(欧米の富裕層「クリエイティブ層」がターゲット)に対して、自らが企画・運営した旅行を直販することを検討していた。社長曰く「ブログで当社を知ってもらい、自社サイト経由で海外の顧客に販売したい」「クリエイティブ層は日本文化に関心が高く、日本文化に触れられる小旅行には相応の支出を厭わない。日本までのフライト・宿泊は一般的なツアーで予約すればいい。日本滞在中は当社独自の小旅行で日本文化を十分味わってほしい」「ターゲットへの集客方法を検討してほしい」とのことだった。
A社社長は「クリエイティブ層」にこだわりがあった。それは「クリエイティブ層向けなら、自分のこだわりぬいた高品質のサービスを高価格で販売可能」との思いからだ。社長は旅行業を始める前に外国人向けの料理教室を運営していた。その際に「顧客ターゲットを明確にすること」の重要性を実感していたようだ。確かにA社の従業員は当面は社長のみ。自らが企画した小旅行に自らがプレゼンテーターとして同行する形態なので供給量には限界がある。質を高めて高めの価格設定で事業を行うことは理にかなっている。なお、当研究会が分析したA社のSWOT分析は<資料5>のとおり。
3.集客策
(1)クリエイティブ層(ターゲット顧客)へのアプローチ方法
社長は販売用のサイト構築を要望していた。機能としてはサービスの紹介とチャット、決済。訪日前にクリエイティブ層と旅行のカスタマイズについてメールやチャットでやりとりし、決済まで行ったうえで、訪日後にA社サービスを体験してもらうイメージである。
研究会で論議した結果、サイトの構築については相応の費用がかかるし、構築しただけではクリエイティブ層へアプローチできないので、無料のSNSを活用した集客策を提案した。具体的にはInstagramの活用である。
とはいえInstagramでの集客は中長期的施策である。即効性があり、かつ手間をかけずに集客するためには、シェアリングエコノミーの台頭で注目されている大手事業者のポータルサイト(以下、ポータルサイト)を活用することとした。
(2)シェアリングエコノミーの台頭で注目されるポータルサイトの活用
ポータルサイトへの登録に躊躇する理由は手数料の高さではなかろうか。確かにA社が利用しているポータルサイトは15%以上の手数料をとる。正直この手数料は痛い。しかしながら、A社はこの手数料を支払うことでポータルサイトが用意した各種インフラ、さらにはポータルサイトの集客力を利用できた。つまりは、A社の経営課題であった「早期にターゲット層にアプローチする」ことを解決し、商品開発に十分な時間を使えたのだ。
ポータルサイト経由での受注は、現在では100人/月程度まで伸びた。どんなによい商品であっても、これだけの集客(しかも海外から!)を自前のサイトで実現するのは非常に困難である。ポータルサイトの集客力は想像以上である。しかしながらポータルサイトの活用には注意も必要である。登録すれば顧客が自動でついてくるわけではない。A社もそうだった。登録した当初はポータルサイトの「おすすめ」に表示されたためか、それなりの集客があったが、「おすすめ」から落ちると集客は激減した。そこで社長は「おすすめ」の上位復活を目指して各種施策を実行した。その結果が今の集客に至っている。
ポータルサイトは初期費用が少額で、運用費用(従量制)が中心なので、スタートアップ時にはキャッシュフローの観点からも活用度大である。懸案だったネット上での決済機能(※)も標準装備しており、A社のビジネスモデルにマッチしていた。
※決済手段もクレジットカード、電子マネーなど多様化しており、自前で対応するよりもポータルサイトで用意されている決済機能を使うことで開業の負荷が軽減される。
4.今後の課題
(1)集客ルートの多様化
ポータルサイトでは、自社商品を紹介するページのフォーマットが固定(掲載できる画像数、文字数などが制限)されており、顧客に対してより自由かつ大胆なアピールが難しい。そのため、Instagramなどを活用し、よりアピール度が高いサイトを構築し、独自の販売ルートを構築(ポータルサイトからの自立と集客ルートの多様化)を目指したい。
(2)供給力のアップ策
現状のA社は最大16人/日までサービス提供可能なので、アルバイトなどを活用した供給力のアップ策を検討する。
(3)繁忙期、閑散期の対策
サービス業につきものである繁忙期、閑散期への対策である。特にクリエイティブ層はクリスマスから年始にかけては海外に旅行せずに自宅で過ごすことが多いため、この期間についてはターゲットを変えるなど柔軟な対応も必要と考える。
5.【参考】Instagramを使った実証実験と学び
なぜSNSが重要なのか。それは観光庁が行った調査結果に着目したからである(<資料9>参照)。訪日外国人は個人のブログやSNSから情報を得て旅行をプランニングしている。SNSの中で、不特定多数に情報発信しやすいのはInstagramである(<資料10>参照)。
 研究会ではInstagramサイトを試作し、ターゲット層へのアプローチ策を実証実験した。注目したのがハッシュタグ。「クリエイティブ層が集まるハッシュタグがあるはず」との仮説を立て、クリエイティブ層と思われる人が投稿した画像のハッシュタグを調査分析した(<資料11>参照)。
 調査の結果、Instagramサイトを作成するにあたっては、やはりハッシュタグをどのように付すかで閲覧数が変わることがわかった。さらには①Webサイトのコンセプトの明確化、②フォロワーの重要性、③質の良い画像(スマホで撮影しているような画像ではなく、人を引き付けるような画像)が必要なことを学んだ。特に投稿する画像については認識を新たにした。確かに「スマホでとってInstagramにアップロードした画像」も多いが、本格的なInstagramサイトでは、専門のカメラを用い、編集ソフトで高度に加工した画像を掲載している。

(参考文献)
・総務省「通信利用動向調査」(2003年、2004年、2019年)
・観光庁「訪日外国人の消費動向 訪日外国人消費動向調査結果および分析 2018年 年次報報告書」(2018年)
・中小企業庁「中小企業白書」(2018年、2019年)

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